私は今、あなた様におことわり致したいことがあるのです。私はあなた様とかたくお約束を致しましたが、私には或る非常があるのです。それをどうしてもあなた様にお話しすることが出来ません。私今、このやうなことを申し上げれば、ふしぎにお思ひになるでせう。あなた様はその非常を話してくれと仰しやるでせう。その非常を話すくらゐなら、私は死んだはうがどんなに幸福でせう。
どうか私のやうな者はこの世にゐなかつたとおぼしめして下さいませ。あなた様が私に今度お手紙を下さいますその時は、私はこの岐阜には居りません。どこかの国で暮してゐると思つて下さいませ。私はあなた様との ○! を一生忘れはいたしません。私はもう失礼いたしませう――。(中略)さらば。私はあなた様の幸福を一生祈つて居りませう。私はどこの国でどうして暮すのでせう――。お別れいたします。さやうなら。
- 川端康成 伊藤初代 -