慶應義塾大学 髙山緑教授 研究紹介
現在日本人の平均寿命は男性80歳、女性86歳、高齢者人口も25%を超えており、さらに今後、平均寿命は90歳を超えることが見込まれています。そんな中、慶應義塾大学理工学部・髙山緑教授は、ジェロントロジーと呼ばれる、高齢者や高齢社会全般に関わる問題を研究する学際的学問分野に取り組んでいます。
「多くの人が85~90才という長い年齢を生きられるようになった今、より重要な事は健康で長生きをすること、そして幸福感をもって生きる事、そこが重要になって来るのです。でもまだそこに関してははっきりわからない事が非常にたくさんあります。またそういった分野に関しては、勿論生理学や医学の要因も非常に重要なのですが、それだけではなくて、心理学、福祉、社会学、環境、経済、そういった問題も重要になってきます。そういったいわゆる社会科学的心理学的な視点から健康長寿や幸福感に関わる要因を切り込んでいきたいと考えています。」
髙山教授は2008年、慶應義塾大学の医学、看護学、心理学などの研究者を中心にした異分野連携研究グループを組織し、85歳以上を対象にした超高齢者調査を開始しました。この研究から、超高齢期には明白な医学的、生理学的機能の低下がみられる一方で、85歳を超えた高齢者でも、自分が何か役に立っているという体験をしたり、自尊心が高まると、幸福感が高まることが示されました。
「大きな事でなくてもいいのです。どこかでボランティアをするとか、力仕事をすることでなくても、例えば家族や自分の身の回りの近い人達の話を聞いてあげるとか、相談にのってあげる、励ましてあげる、といったようなことでも、自分がまわりの人の役にたっているなあとか自分の存在意義があると感じられるような状態の方達は非常に幸福感が高いです。
私達はともすると、80代90代になった高齢者の方達は守ってあげないといけないとか、何かしてあげないといけないとか、または逆にネガティブなかわいそうな方たちというイメージを一般的に持つ傾向が残念ながら今でもありますが、高齢者もひとりの人なのですね。その中で自分が認められている、自分が存在していられるという感覚経験は非常に大きいということがわかっています。」
本研究は国際比較研究にも発展しており、本研究データとドイツの超高齢者研究・ベルリンエイジングスタディのデータを基に、日独の国際比較分析も行っています。また、「地域」や「ソーシャル・キャピタル」の視点も入れて調査研究をスタートさせ、社会関係や社会参加、そして地域環境や地域とのつながりが、70歳代から90歳代へ向けてどのように変容していくか、その変化が高齢者の健康・長寿や幸福感にどのような影響を与えているのかを質的調査、量的調査の双方から多角的に解明することを目指しています。
「一番大きな研究課題というのは、これから日本だけではなくて世界全体が長寿社会に向かって行く中で、一人一人の人がどんな身体的な状態になっても尊厳をもって、生きて行く事ができる社会に貢献をしていく、そういった研究をしていきたいと思っています。それが今までお話をした健康長寿、健康寿命にどう心理的社会的な要因が関わって来るのか、幸福感にどのような要因で影響をうけるのかという事を明らかにすることによって、より豊かな長寿社会が一人一人の人が自尊心を持って、尊厳を持って、幸福感を持って生きて行ける社会をつくる、そういったことを実証的なデータを明らかにしながら、追及して行きたいと考えています。」